キリスト教文化研究所

キリスト教文化研究所とは

キリスト教文化研究所は、カトリック大学である本学の建学精神に基づき、キリスト教の学問的研究を通じて、現代世界及び日本文化へのキリスト教の定着に寄与することを目的として活動しています。

キリスト教文化研究所の設置目的

初代所長 稲垣 良典

本学にキリスト教文化研究所が設置された目的は、平成11年以来、毎年定期的に刊行されている「長崎純心レクチャーズ」のために片岡学長が寄稿された序文に明確に記されていると思うので、それに従って次のように要約しておく。大学は本来的に真理探求の場であるが、カトリック大学は信仰をもって受けいれた第一の真理、つまり神自身によって啓示された生ける真理の導きの下に、それぞれの学問分野において真理を探求し、それを惜しみなくわかちあうことをめざす。したがって、カトリック大学の特徴は、教育と研究、その他すべての活動において何よりも信仰と理性の総合を追求するところに認められる。そしてキリスト教文化研究所はそのようなカトリック大学の特徴を保持し、輝き出させるような研究活動を支え、発展させるために設立されたものである。

ここで一言付け加えておきたいのは「カトリック大学」と言うとき、「大学」と、それに付加された「カトリック」という形容詞は、互いに決して異質無縁なものではない、ということである。わが国には仏教のいくつかの宗派によって経営されている仏教系の大学があり、また聖公会、ルーテル派、改革派、メソジスト、バプティストなどの教会によって「キリスト教主義」大学として設立された大学も多いが、「カトリック大学」はただそれらと並ぶ一つの分類項としてそう名付けられているのではない。そうではなく、「カトリック大学」の理念は、「カトリック」ということを、たんに大学の外的な特徴としてではなく、真理の探求という大学本来の使命を、より卓越した仕方で遂行することを可能にする内的な根源として理解するところにある。そして、このような理解の根底には、「超自然(的な神の恵み)が自然を破壊せず、むしろ完成するように、信仰(の光)は理性(による探求)を支え、より実り豊かにする」というカトリック的信仰態度が見出される、と言えるであろう。

研究所の活動内容としては、現在までのところ、平成7年以降、原則的に毎年秋に行われている「長崎純心レクチャーズ」を挙げることができるにとどまる。研究所長として、カトリック大学の研究所にふさわしい共同研究のプロジェクトについて考えることを怠ったわけではないが、実行に移す機会がなかった。第一に共同研究のテーマとして考えたのは自然法の研究であり、私自身、わが国における自然法研究の先達である田中耕太郎博士に親しく教えを受け、その著書を英訳したこともあり、一時期、阿南成一、水波朗教授たちと共同研究を行った経験を生かして、この研究所での新しい共同研究を計画したが、関係文献を研究所に寄贈するにとどまった。もう一つは最近の歴史学、文献学、考古学的な「聖書学」ではない、「神の言(ことば)」としての聖書を、長い歴史を持つ聖書釈義の伝統のなかで徹底的に研究する「聖書学」構築であるが、これも私自身、ごく限られた文献の収集に手をつけるだけにとどまっている。将来、こうした研究がこの研究所を拠点として産み出されることを切に願っている。

活動内容

2016年度

講演会

2017年2月20日(月)

  • 演題 「アウグスティヌスにおける生と死の問題」―『神の国』第二十二巻を中心に―
  • 講師 荒井 洋一(東京学芸大学名誉教授)
  • 場所 長崎純心大学 会議室3

2017年度

講演会

2018年2月8日(木)

  • 演題 「ザビエルの夢を紡いだ宣教師:カンドウ神父の日本語文学」
  • 講師 郭南燕(国際日本文化研究センター機関研究員)
  • 場所 長崎純心大学 会議室3

2018年度

紀要発行

2018年10月1日 キリスト教文化研究所紀要第一号

〔掲載論文〕

  • 東京学芸大学名誉教授 荒井洋一
    「アウグスティヌスにおける生と死の問題-『神の国』第二十二巻を中心に-」
  • 本学教授 荒木慎一郎
    「昭和初期カトリシズムにおけるジャック・マリタンの思想の導入(一)-岩下神父とカンドウ神父の試み-」

2019年度

講演会

2019年10月21日(月)

  • 演題 「聖フランシスコと音楽と平和」
  • 講師 杉本ゆり(ラウデージ東京主宰聖グレゴリオの家・宗教音楽研究所資料室勤務)
  • 場所 長崎純心大学 コミュニケーションセンター

紀要発行

2020年3月1日 キリスト教文化研究所紀要第二号

〔掲載論文〕

  • 聖グレゴリオの家・宗教音楽研究所 杉本ゆり
    「初期フランシスカンにおける音楽」
  • 本学教授 荒木慎一郎
    「子どもたちの原爆の記憶を世界に伝える試み(Ⅰ)-永井隆編『原子雲の下に生きて』前半のドイツ語訳-」

長崎純心レクチャーズ

「長崎純心レクチャーズ」について

学校法人純心女子学園 前理事長 片岡 千鶴子

1994年、長崎純心大学がカトリック大学として第一歩をふみ出したとき、キリスト教と日本文化との出会いの象徴ともいえる長崎に設立されたカトリック大学に相応しい活動をめざして、いくつかの将来計画が構想されました。その一つが本学のキリスト教文化研究所によって企画・運営される「長崎純心レクチャーズ」であります。
大学は本来的に真理探求の場でありますが、カトリック大学は信仰をもって受けいれた第一の真理の導きの下に、それぞれの学問分野において真理を探求し、それを惜しみなくわかちあうことをめざします。したがって、カトリック大学の特徴は、教育と研究、その他すべての活動において何よりも信仰と理性の総合を追求するところに見出されます。「長崎純心レクチャーズ」は本学のこのようなカトリック大学としてのアイデンティティーの確立に寄与することをめざしています。

このような目的にてらして、講師にはカトリック信仰に導かれ、支えられつつ、創造的で卓越した学問的活動に従事しておられるカトリック学者を招き、或る期間長崎に滞在していただいて大学共同体および地域の人々との交わりを深めつつ、それぞれの研究分野に関わりのある主題について一連の講演をしていただくことを原則にしております。こうしたカトリック学者による学問的に卓越した内容の講演は、信仰と理性とは相互に無縁であるか、あるいは本質的に敵対的であるとする近代思想の根拠なき偏見にたいして、信仰と理性はたんに両立しうるにとどまらず、真の信仰は理性の営為を扶助して、それを強化し、完成するという積極的な影響を与えうるものであることの力強い証しとなることが期待されます。

「長崎純心レクチャーズ」は、信仰と理性の対話、キリスト教信仰と人間文化との豊かな出会いを実現することを使命とするカトリック大学としての長崎純心大学が、広く世界に向けて発信するメッセージであります。長崎は鎖国時代を通じて世界にたいして開かれていた唯一の扉として、日本の「近代化」において重要な役割を果たしました。いまわれわれは、一方においてこれまでの「近代化」の歩みを徹底的にふりかえりつつ、他方ではまもなく始まる第三の千年紀における新しい人間文化の建設に向けて、本学が建学の理念として掲げるキリスト教的ヒューマニズムの立場から大胆な提言を行う責務があります。われわれが「長崎純心レクチャーズ」をわが国においてだけではなく、世界的にも高く評価され、将来の学問、思想、文化にたいして何らかのインパクトを持ちうるようなレクチャー・シリーズに育ててゆきたいと願っておりますのは、こうしたカトリック大学としての責務を果たすためであります。

開催実績

題目 講師 開催日
第1回 トマス・アクィナスのキリスト論 山田 晶
(京都大学名誉教授、南山大学文学部神学科教授)
平成7年10月2日(月)〜
10月4日(水)
第2回 カトリック神学の現状 レオ・エルダース
(オランダ・ロルドゥック神学大学教授)
平成10年10月12日(月)〜
10月14日(水)
第3回 精神医学とキリスト教信仰 土居 健郎
(医学博士、聖路加国際病院顧問)
平成11年10月25日(月)〜
10月27日(水)
第4回 問題としての神
-経験・存在・神-
稲垣 良典
(長崎純心大学教授、キリスト教文化研究所所長)
平成12年10月30日(月)〜
11月 1日(水)
第5回 近代世界とキリスト教 村上 陽一郎
(国際基督教大学教授)
平成13年7月17日(火)〜
7月19日(木)
第6回 超越に貫かれた人間
-宗教性の成立根拠を問うて-
クラウス・リーゼンフーバー
(上智大学教授)
平成14年10月29日(火)〜
10月31日(木)
第7回 学問と信仰
〜一法学者の省察〜
ホセ・ヨンパルト
(上智大学名誉教授)
平成15年10月28日(火)〜
10月30日(木)
第8回 ヨーロッパ思想史の中で『自由』を考える 半澤 孝麿
(東京都立大学名誉教授)
平成16年10月25日(月)〜
10月27日(水)
第9回 超越その三つのかかわり
-ソクラテス、一遍、レヴィナス-
岩田 靖夫
(東北大学名誉教授、仙台白百合女子大学教授)
平成17年10月25日(火)〜
10月27日(木)
第10回 現代的危機からのエクソダス 宮本 久雄
(東京大学大学院総合文化研究科教授)
平成18年10月24日(火)〜
10月26日(木)
第11回 人間、社会、宗教
-法学者の視点から-どのような視点か
星野 英一
(東京大学名誉教授、日本学士院会員)
平成19年10月23日(火)〜
10月25日(木)
第12回 文学とキリスト教
-英文学史におけるキリスト教文学-
高柳 俊一
(上智大学名誉教授)
平成20年10月21日(火)〜
10月23日(木)
第13回 核の時代における平和論;
医療の現場から
山下 俊一
(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科長)
平成21年10月19日(月)〜
10月21日(水)
第14回 アジア文化と福音の受容
-韓国社会の場合
姜禹一 司教
(韓国カトリック教会済州教区)
平成23年10月18日(火)〜
10月19日(水)
第15回 人格主義生命倫理学
-死にゆく者、生まれてくる者、医職の尊厳の尊重に向けて
秋葉 悦子
(富山大学経済学部経営法学科教授、バチカン生命アカデミー客員会員)
平成24年10月16日(火)〜
10月18日(木)
第16回 少年法における日本とアメリカ
~「甘え」の心理構造と少年・家族・社会~
森田 明
(東洋大学法学部教授)
平成25年10月15日(火)〜
10月17日(水)

長崎純心レクチャーズの出版物

書名 著者名 発行年 出版社
1 「トマス・アクィナスのキリスト論」 山田 晶 平成11年 創文社
2 「教会・神学・救い」 レオ・エルダース 平成12年
3 「甘え・病い・信仰」 土居 健郎 平成13年
4 「問題としての神」 稲垣 良典 平成14年
5 「科学史からキリスト教をみる」 村上 陽一郎 平成15年
6 「超越に貫かれた人間」 クラウス・リーゼンフーバー 平成16年
7 「学問と信仰」 ホセ・ヨンパルト 平成16年
8 「ヨーロッパ思想史のなかの自由」 半澤 孝麿 平成17年
9 「三人の求道者」 岩田 靖夫 平成18年
10 「他者の甦り-アウシュヴィッツからのエクソダス」 宮本 久雄 平成19年
11 「人間・社会・法」 星野 英一 平成21年
12 「英文学とキリスト教文学」 高柳 俊一 平成21年
13 「福音とアジア文化-韓国カトリック教会の歴史と課題」 姜禹一 平成25年
14 「人格主義生命倫理学-死にゆく者、生まれてくる者、医職の尊厳の尊重に向けて」 秋葉 悦子 平成26年
15 「少年法と『甘え』」 森田 明 平成27年